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僕のねむりを醒ます人―Sanctuary―

 ふと気が付くと、夜の路を歩いていた。
 凍てつく風に叩かれる頬は、しかしジュクジュクと熱をもっている。かじかんだ手で頬に触れてみると、ぐっしょりと手指が濡れた。泣いているのだ。
 立ち止まり、考える。
 自分は、誰なのだろう?
「皓」
 自動的に口が動き、白と告が並んだ文字が思い浮かぶ。それが自分の名前であるらしい。年齢は……十八歳だ。
 もうひとりの、ずっとこの身体を使ってきた少年のことも自然と理解する。
 彼は耀という名で、十六歳だ。この半年であまりにも酷いことが重なり、彼の心はギリギリの縁にあった。
 そして今晩、ついに大きな亀裂が走った。
 その理由は――。
「雪弥……」
 呟いたとたん、胸に甘くて温かいものが拡がるのを皓は感じる。彼は黒い髪と眸をもつ、日本人形のような顔立ちをした、耀の幼馴染だ。耀はずっと雪弥に想いを寄せていた。それを誤魔化すためにいろんな女子と付き合ったけれども、彼の心が雪弥から離れることはなかった。
 そして今夜、耀はその大切な存在を犯した。ほんの三十分ほど前まで、耀はペニスを雪弥のなかに挿れていたのだ。雪弥は、泣いていた。
 強烈すぎる快楽と、焦燥感と、大切なものを破壊する激痛とに、凌辱のあいだ中、耀の精神は悲鳴をあげつづけていた。
 そうしてついに罅割れ、その罅のなかから、自分は生まれてきたのだった。
 雪弥を大切にできなかった耀の代わりに、雪弥を大切にするために。
 耀が壊れないように、守るために。
 生まれたての頼りない存在だけれども、自分はしっかり立ち、課されたことを果たさなければならない。
 皓は白い息を吐きながら、光を不安定に明滅させる街灯に浮かんでは沈む夜の路の先を見る。
 この路は、どこまで続いているのだろう?
 この路の先のどこかで、愛しい雪弥に逢うことはできるのだろうか?
 皓は、皓としての第一歩を恐る恐る踏み出した……。
 
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