会員限定コンテンツ

ぼくの可愛い妊夫さま

 娘の千尋がようやく卒乳した。今は母と二人で近所の公園に出掛けている。久しぶりに二人っきりになった。見ると岩本は胸を手の平で軽く押さえて眉を顰めている。
「もしかして胸、張ってますか?」
「ん? ああ、まあちょっとな」
「僕が吸いましょうか。断乳で乳房が張ってつらい時には配偶者が吸うのも効果的だそうですよ。大丈夫、三児の母で産科医の島袋先生もそう言ってましたから! では失礼します」
「ちょ、ちょ、ま、待てって、つか崇さんいつになくすげえ早口!」
「いいじゃないですか! 実はずっと吸ってみたかったんですよ! でも我慢してたんです。僕の口内細菌がちーちゃんの口に入ったらまずいと思って。僕ピロリ菌の検査もしてないし虫歯菌もいるだろうし、ちーちゃんが卒乳したら吸わせてもらおうって楽しみにして……」
「い、いや、駄目とは言ってねえけど、必死さが怖えんだよ。目据わってるし動きがなんつうか獣っぽい」
「なんだ。じゃ、いいですよね」
「わっ……ったく、そんなに吸いたかったのかよ。しょうがねえお父さんだなあ」
 岩本が笑う。
「しょうがないお父さんなんです」
 僕も締まりのない顔で笑う。
「あんま吸ってるといつまで経っても二人目できねえかもよ?」
「いいですね。それで家族計画しましょうか」
「崇さんそれでも産婦人科医かよ。ほんと崇さんもキャラ変わったよなあ」
 そうかもしれない。岩本と出会ってから僕は自分に甘くなった。少し不真面目になった。そして毎日が楽しくなった。潜り込んだTシャツの中で妊娠前よりもやや肥大しベージュがかった乳首に吸い付く。ほんのりと甘い。そっと腹部を撫でると皮膚の引き攣れがわかった。岩本が気づいてぼやく。
「妊娠線、結構残っちまったな」
 岩本は気にしているようだが、ジーンズから覗く引き締まった下腹部、割れた腹筋に走る母性の証はどきりとするほどエロティックだった。うっとりしながらそれにも舌を這わせる。
「うん、素敵です」
「そおかあ?」
「僕は好きだな」
 いろいろ変わってしまったけれど今の方がいい、そう言ってくれた岩本に甘えるわけではないが、どんな変化も僕にとっては愛おしい。
「ならいっか……っておい! 尻揉むなよ。ったく、崇さん尻好きだよな……んっ……お義母さんとちーちゃんが帰ってきちゃうぜ?」
「ちょっとだけ」
 ああ、幸せだ。ありがとう、僕の可愛い経産夫さま。
一覧へ戻る

Search

キーワード

カテゴリ

  • 作品へのご意見・ご感想
  • 原稿募集