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王様に告白したら求婚されました

 それはイスハークが、町内にある小さな神社の夏祭りに興味を示したのが始まりだった。
「鷹臣、どうですか? ジャパニーズ浴衣!」
 病院で仕事を終えた帰り、待ち合わせの駅前でイスハークを見つけた鷹臣は仰天した。
「イスハーク、どこでそれを?」
「知人に紹介された銀座の店です。最初に勧められたキモノはどれも地味だったので、自分で選んだのをキツケ? してもらいました」
「──……」
 おそらく、最初に店で勧められた浴衣こそ男性用だったのだろうが、イスハークが纏っているのは紺地に鮮やかな花々や流水文を染め抜いた、紛う事なき女性用浴衣だった。
 鮮やかな山吹色の帯を玉手箱結びにし、長い金髪は高く結い上げ粋な簪まで刺している。
「似合わないですか?」
「いや……お似合いですよ、とっても」
 メンズ浴衣の飛白や縞も粋だが、変装だと思えばこれも美しい。
「暗くなる前に、行きましょうか」
 立ち並ぶ屋台を冷やかしつつ、イスハークと並んで神社に向かう。ただでさえ目立つ容貌のふたりが、いつよりもさらに周囲の視線を集めているのは気のせいではないだろう。
 だが不思議と恥ずかしさはなかった。すべての重責から解放され、イスハークが日本での自分との生活を楽しんでいる。それだけで嬉しくて、ささやかな日常が幸せそのものだ。
「はぐれないように」
 お参りをすませ、参道を歩きながら手を繋ぐとイスハークは頬を染めて頷いた。襟から覗く項に色香を感じて思わずドキリとしてしまう。不意に、イスハークが足を止めた。
「鷹臣、あれ、やりたいです」
 せがまれたのは金魚掬いだった。色鮮やかな金魚が泳ぐビニールプールの前にしゃがみ、さっそくポイを水に浸したイスハークに、屋台主の中年男性がふと目を凝らした。
「あれっ、姉ちゃんどこかで……いや、元国王がこんな下町いるわけないやな……」
 ただの外国人観光客と思わない人間も少なからずいるようだ。愛想笑いで誤魔化しながら、イスハークにそっと耳打ちする。
「気づかれる前に帰りましょう」
 すでに退位したとはいえ、元国王が警護もなしに人混みをうろついていると知れたら面倒が起きないとも限らない。
 金魚を入れたビニールの巾着を手に、人気のない脇道に駆け込んで息をつく。鷹臣は冷や汗ものだったが、イスハークは楽しそうだ。
「こういうの、ドキドキしますね」
「イスハーク、そういうことは……」
「大丈夫、だれも見てませんよ」
 木の影に隠れて、キスをする。まるで子供みたいだ。祭り囃子の音を遠くに聞きながら、濡れた唇を拭って息をつく。
「帰りましょうか」
 手を繋いで、ふたりの家に帰る。水の玉の中で、金魚がひらひらと舞っていた。
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