もふ・らぶ~うちのオオカミは待てができない~

小説

もふ・らぶ~うちのオオカミは待てができない~

著者
高月まつり
イラスト
八千代ハル
発売日
2019年01月19日
定価
770円(10%税込)
噛みたい。噛みつきたい。いっぱい痕を残したい。

真千が幼い頃から可愛がってきた幼馴染みの形は、獣之人という獣の血を持つ種族。
オオカミの血を引く形は、物心がついた頃から「まさゆきちゃんと結婚する!」と言い続け、成人してさらに接触の濃度が増してきた。

抱きつく、甘噛みする、舐めるだけでなく際どい部分にまで触れてくる形を窘めながらも、
もふっとした耳と尻尾に触ると真千も思わず許してしまう。

けれど、まだまだ子供だと思っていた形に獣之人同士の見合い話が持ち上がり…!?

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登場人物紹介

滝沢真千(たきざわまさゆき)
滝沢真千(たきざわまさゆき)

画家である父の知り合いの経営するギャラリーで働く27歳のギャラリスト。幼い頃に滝沢家で預かることになった獣之人の形を弟のように溺愛し、世話を焼いている。

何森形(いずもりけい)
何森形(いずもりけい)

20歳の大学生。オオカミの血を引く、獣之人という種族。幼い頃に両親が渡歐して以来、滝沢家に預けられる。真千に幼い頃よりプロポーズをし、アピールするが……。

試し読み

 何森家と滝沢家は、最初は単なる「お隣さん」だったが、滝沢家が父一人子一人になってしまった頃に両家の関係が変わった。
「可燃ゴミと不燃ゴミを混ぜて可燃ゴミの日に出して、町内会役員に注意されていた」
「大雨が降っても洗濯物を外に出しっぱなしだった。布団も外に出ていた。ぐっしょり濡れてから慌ててしまっていた」「回覧板が信じられないほど遅く回ってきた」
 最初は「注意は穏やかにしよう。そして、大変だろうけど頑張って」と見守っていた何森家だったが、滝沢父が子供の幼稚園のお迎えに来なかったことが引き金となった。
 ぽつんと一人、マイクロバスの停留所に残されて途方に暮れていた息子は、買い物帰りに通りがかった何森夫妻に保護されて帰宅したのだ。何森夫妻はフォトグラファーという仕事柄、渡航も多く、思考は欧米寄りだった。
 つまり、保護の必要な子供を決して一人にはしない。
 半ば強引に「差し出がましいようですが、よかったら協力させてほしい」と、滝沢家を訪れたところ、涙と笑顔で歓迎された。滝沢父も限界だったのだ。
 それがきっかけで、家族ぐるみの付き合いとなった。
 持ちつ持たれつのいい関係は、何森家に子供が出来てからも変わらず、穏やかで楽しい毎日は、この先もずっと続くものと思われていた。
 が。 
「滝沢さん、本当にごめんなさい。まさかこの子が、日本に残ると言い出すとは思わなくて……。どうか、うちの形をよろしくお願いします。悪いことをしたら我が子のように叱ってやってください。私たちも頻繁に連絡します。時間を作って会いに来ます」
 何森夫妻は、仕事の拠点を海外に移すために渡欧する。
 最初は親子三人揃っての渡欧計画だったが、息子の形が断固として渡欧を拒み、結果、隣家の滝沢家に預けられることになった。
「形君のことは生まれる前から知ってますし、何より真千がいるので大丈夫ですよ。そちらも、いろいろと大変でしょうが頑張ってください」玄関先で、何森夫妻を安心させるように笑う滝沢真隆の横で、中学二年生の真千が「形、おいで」と形に手招きする。
「まさゆきちゃん!」
 お出かけセットの入ったリュックを背負った形が、勢いよく真千に抱きついた。
 喜びすぎて、アッシュグレーの柔らかな癖っ毛から大きな耳が出て、尻からは同じ色のモフモフ尻尾が出て勢いよく振られている。
 子供らしい丸みを帯びた頬に、大きな二重の目、小さな鼻と桜色の唇を持った形は、ただでさえ可愛らしいのに、大きな耳と尻尾まで持っている。完璧な存在だ。
 真千は彼をぎゅっと抱き締めて、その柔らかな髪に顔を押しつけた。
 形は、生まれたときから傍にいた七歳年上の真千が大好きで、とにかく彼と離れたくない一心で、渡欧を拒否し続けて勝利した。
「形、ほら、耳と尻尾が出てるわよ。小学生になったんだから、ちゃんとしなさい。バレたら大変なことになるのよ? 分かっているの? 形」
 母に指摘されても、形はまったく気にしない。
「見られてもいいの! おれはまさゆきちゃんとけっこんするからっ! まさゆきちゃんが日本にいるから、おれは日本が好き!」
「まあ、この子ったら……」
 これから暫くの間は両親と離ればなれだというのに、形は真千に抱っこしてもらってしがみつくことに夢中だ。
「何森さんも、正体がバレないように気を付けて。形君のことは、私と真千でしっかり面倒を見ます」
「はい、ありがとうございます……向こうの方が、同種の獣之人も多いし、バレることなく仕事も上手く行くと思います」
 何森父は真隆としっかり握手を交わし、幼い息子の頭を優しく撫でて、妻を伴って滝沢家をあとにした。
「まさゆきちゃんは、おれがさびしくないように、おれといっしょにねるんだよ?」
 今の今まで、両親に「ばいばい」と手を振っていた愛らしい子供が、真千の首に両腕を回して「やくそく」と言って頬にキスをする。
「いいよ。ずっと一緒に寝てやるよ」
「あと、けっこんして」
 形は幼稚園で「好きな人とは結婚するものよ」と他の園児に言われて以来、ことあるごとに真千にプロポーズをしていた。
「その前に、ちゃんと耳と尻尾を引っ込めろ。知らない人間に見られたら大変なことになるぞ? プロポーズは、それがちゃんとできるようになってからだ」
「……学校だとだいじょうぶなんだけどな、おれ」
 形は、真千の首に鼻先を押しつけて甘えながら言う。
「あれだな。形は真千がいると安心して気が緩むのかな? だが、結婚となると話は別だ。
 とりあえずいっぱいご飯を食べていっぱい寝て、真千より大きくなってからだ」
「まじで……! りょうかいしました!」
 真隆の言葉に、形は瞳を輝かせて何度も頷く。
「父さん、そんな暢気 なことを言ってる場合か? 形がどこかの医療機関や政府の極秘機関に捕まって実験動物にされたらどうすんだよ! こんなに可愛いのにっ! まだこんなに小さいのに! 俺は絶対に、むやみやたらと耳と尻尾を出さないように躾るぞ!」
 真千が真剣に自分のことを考えてくれるのが嬉しくて、形はキラキラと瞳を輝かせて
「まさゆきちゃん、けっこんして!」と再びプロポーズをした。

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