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今日から悪魔と同居します

「うわ、マジでヤバい!」
「うーん! めっちゃ美味しい!」
「四十分並んでよかったぁ!」
 ある秋の日の週末。都内某所にオープンしたばかりのスフレ専門店の一角で、凌平はクラスメイトの女子二人とともに至福の表情を浮かべていた。
「やっぱ始発で出てきて正解だったろ?」
 ココットから溢れんばかりに盛り上がったふわふわの生地をスプーンで掬い、うっとり眺めながら言うと、向かいに座った女子たちが無言でウンウンと頷いた。
「昨日、必死でママとパパ説得して、ホントよかった」
「なんて言って東京行くの、許してもらったの?」
 ハイテンションで会話する女子たちをよそに、凌平はほんのりと鼻腔に広がるチーズの芳醇な香りを楽しみつつ、舌の上で融けていく生地を味わう。
「合格するまで、週末も遊びに行かない……って」
「うわ……。でも、ミサは推薦だもんね。年内には余裕で決まるでしょ? ウチなんか東京行くのはいいけど、誰と行くんだってマジ煩くってさ」
「あ、それアタシんとこも一緒。小学生かよ……って思ったけど、反対されんのイヤだから、ミサと乾くんと行くんだって言ったら、パパが余計に反対し始めちゃってさぁ」
「そうそう。ウチも『乾くんってよく一緒に出かけてるみたいだけど、彼氏?』とか言っちゃってさ!」
 凌平は控え目にデコレートされた生クリームと、一粒だけのったブルーベリーをスフレと一緒に頬張った。
「ああ! このハーモニー最高っ! 口に入れた瞬間ふわっと香るレモンの風味がまた、余韻を楽しませてくれると言うか……サイコー、オブ、サイコーッ!」
 スプーンを手にスフレの美味しさを堪能する凌平を、女子たちがじとっとした目で見つめる。
「「彼氏とか、ないわぁ……」」
 女子の口から同時に零れた声は凌平の耳に届かない。
「馬鹿がつくほどの、スイーツ男子だもんねぇ」
「悪いコじゃないんだけどなぁ」
 アイドル系の容姿に明るい性格の凌平は誰からも好かれる。だけど十八年間、彼女ができたことがない。
 ついたあだ名が、『残念スイーツ王子』。
 女の子や恋愛より、スイーツが大好きな凌平。
 そんな彼にとんでもない未来が待ち受けていることを、凌平は知る由もなかった――。
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