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腹黒天使はネコ耳王子と恋に落ちるか

 その夜、流可が遅番のバイトを終え、王家の離れに帰ると、二人掛けのダイニングテーブルの上に、ボウルに入ったフルーツヨーグルトが置かれていた。
 綺麗にラップ掛けされたボウルの横に、亜門の字で『流可へ。お疲れ様』とメモがある。
 遅番のバイトの終わりには、いつも小腹が減ると言ったから、亜門が用意してくれたのだろう。
 恋人の気づかいに感謝して、流可はさっそく、ヨーグルトを食べ始めた。
(亜門は本当に、気が利くし優しいな)
 自分も見習わなくては。その亜門は、流可より先に仕事から帰って、今は二階のバスルームにいるらしい。シャワーの水音が微かに聞こえてくる。
 ヨーグルトは、中にイチゴやバナナがたっぷり入っていて美味しかった。白いヨーグルトに絡まって、口に入れるまで、何の果物かわからないのもまた楽しい。
「ん、んんん?」
 しかし、下の方にある果物の破片を何気なく口に入れて、流可は唸った。
 それは、イチゴでもバナナでもなかった。抗いがたい濃厚な甘みと香り。この悪魔的な果実はもしや……。
「キウイ……」
 キウイはヨーグルトに巧妙に隠されて、ボウルの底にたっぷり詰まっていた。これ以上、食べてはいけないと理性では思っているのに、手が止まらない。気がつけば完食してしまっていた。
「おかえり、流可。ヨーグルト、食べてくれたんだ」
 二階から降りてきた亜門が、濡れた髪を拭きながら何食わぬ顔でそんなことを言う。バスローブなんぞ優雅に羽織って、逞しい胸元がちらりと覗くのが艶めかしかった。これも計算のうちか。
「亜門お前、謀ったにゃ?」
「ニャんの……じゃなかった、何のこと? それより、明日は二人とも休みだろう。今夜は、ゆっくりたっぷり過ごそうね」
 言いながら、亜門は流可を背後から抱きしめる。あごを取ると、すぐさま濃厚なキスをした。
「ん、ぅ……っ」
「尻尾と耳が出てる。もう臨戦態勢なんて、嬉しいよ」
 爽やかに黒い笑みを浮かべて、亜門が流可の服を脱がしていく。背後に見える翼だけが純白だ。
 そうして離れには一晩中、甘い声が響くのだった。
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