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神の愛しき妻の話~結婚二年目、花嫁修業中!~ 番外編

 今年の夏は、猛暑になった。窓の外からうるさいほどの蝉しぐれが聞こえるこの日、砂羽は台所で昼食用にそうめんを作ることにした。
 なるべく炎珠にばかり世話を焼かせないようにしよう、と決意したあの日以来、今では麺を茹でるくらいはできるようになっている。
 しかし、暑い。古い台所は窓と隙間から、熱気が入り込んでくる。
「ふう。なんだか換気扇を回しても、熱気がぐるぐる回ってるだけみたい」
 ガスで鍋の湯を沸騰させていた砂羽は、あまりの暑さに辟易してしまっていた。足の腿の内側にまで汗が伝い、気持ちが悪くなってくる。
「こんなに汗びっしょりじゃ、どうせすぐ着替えて洗濯するし。脱いじゃおう」
 箸で麺の具合を見ながら、砂羽はエプロンを外し、バミューダパンツを片方の手と足で器用に脱いでしまった。次いで、麺をざるに空けて水道水で冷やし終えると、今度はTシャツも脱いでしまう。
「あ。そうだ、おつゆも作らないと」
 思い出し、急いでエプロンだけをつけると、今度は醤油と味醂で麺つゆを作り始める。
 大皿に盛った麺に氷を乗せ、ふたり分の麺つゆも作り終えた砂羽は、完璧な昼食が完成したと満足しながら、居間で待たせていた炎珠のもとへと、トレイにそうめんを乗せて運んだのだが。
「砂羽! お前、それはいったい……!」
 なぜか絶句した炎珠に、砂羽は首を傾げる。
「そうめんですよ? え、俺、なにか間違ってますか?」
 炎珠はなぜかいそいそと、うろたえる砂羽の手からトレイを受け取って座卓に置いた。
 そして正面からつくづくと砂羽を眺め、感嘆したように溜め息をつく。
「噂には聞いたことがある。これが人間界の、裸エプロンというものか」
「はだかえぷろん……? いいえ。俺、パンツは履いてます」
 きょとんとして答えた砂羽のエプロンを、炎珠はぴらりとまくって確認した。その端整な顔に、ほんの少し残念そうな表情が浮かぶのを見て、砂羽はポッと顔を赤くする。そして炎珠の気持ちを察し、羞恥におどおどしながら言う。
「あの。ええと」
 まくられた裾を両手で押さえ、砂羽は小さな声でつぶやく。
「た、食べ終わってからなら、脱いでも……いいです」
 と、炎珠の表情が歓喜にパッと明るくなる。
「そ、そうか。いや俺は別に、そこまで裸エプロンに拘っているわけではないが。しかし、だったら早く食べよう。つまりその、のびてしまうからな」
 そうしてふたりは互いに顔を赤くして、急いでつるつるとそうめんを食べたのだった。
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