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色悪幽霊、○○がありません!

 自然薯。
 安田はそれを手に持ったままじっと眺めていた。たくさんもらったからと近所のお婆ちゃんが持ってきたもので、随分と立派だ。
 自然薯がおいしいことは知っている。すりおろせば、ねっとりとした食感が味わえる。市販の出汁で十分に美味しいが、海苔をかければ最高だ。だが、安田は辺りを警戒しながら自然薯の処分を検討していた。
「土方さんは……いないな」
 つぶやき、隠し場所を探してそそくさと家を出ようとする。けれども声をかけられて足をとめた。
「何やってるんだぁ?」
 着流しにキセルという粋ないでたちで二階から下りてきたのは、土方だった。即座に自然薯を後ろに隠して愛想笑いをする。
「いえ……っ、なんでも……っ」
 イチモツを取り戻したとはいえ、なくしていた時はキュウリや大根でいたされたのだ。また妙な考えを起こしてもらっては困る。ここは土方を刺激するようなものは一切排除すべきだろう。
 なんとか見られず外へ出られないかとジリジリと後退りするが、そう簡単に誤魔化せるものではない。
「お!」
 目ざとく自然薯を見つけた土方は、生き生きした目をした。死んでいるのに、相変わらず生命力を感じさせる男だ。
「なんだ、やっぱりチャレンジしたいんじゃねぇか」
「したくないです! 絶対したくないです!」
 強く訴えるが土方にそんなものが効くはずがない。安田の手から自然薯を奪おうと襲いかかってくる。
「ほら、こっちによこせ」
「嫌です! 駄目です!」
「固ぇこと言うなよ。ちょっと試すだけだろうが。な? ちょっとだけだよ」
 ちょっとだけ、という言葉に思わずピクリと反応し、いやいやほだされるなと自分に言い聞かせる。土方に牡の色気を振りまきながら迫られると、判断力が鈍ってしまうのだ。それを土方は見逃さなかった。
「ふぅ~ん、ちょっと興味出てきたみてぇだな」
「そ、そそ、そんなことありません!」
 このあと自然薯がどうなったのかは、二人しか知らない。
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