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執事と二人目の主人

「なぁ、ところでさ……トイレとか、変な場所でするの、今度からナシな」
 飲み会の帰り道、樹は隣を歩く津々倉に、これだけは言っておかねばと念を押した。津々倉は一拍おいて、不服そうな顔をした。
「しかし樹様、俺の精神状態は問題でしたが、樹様は案外感じているように見え」
「じゃなくて! いろいろ足りない状態でしたら、病気になるだろ!」
「それなら大丈夫です。これからは、携帯用のローションを常備しておきます」
「……携帯用? そんなのあるのか?」
「はい。アナル舐めに関しても、オーラルセックス専用のシートがありますので、それも携帯するようにいたします。もちろんゴムも」
 ……いや、違う。そうではない。
 確かに言いたかったことは「安全にしよう」ということだが、専用グッズがあるからといって、「じゃあこれからはどこでもできるな!」という結論に至りたかったわけでは決してない。
「いや……そんなの用意しなくても、これからは家の中だけですれば問題ないんじゃ……」
「いえ、場所を制限するのは賛同しかねます」
「なぜ」
 津々倉は立ち止まり、じっと樹を見下ろした。
「樹様、俺たちが心を通い合わせてから、初めてした場所は、車内でしたよね?」
「……ッ!」
 それを指摘され、顔から火が出そうになる。
 そうなのだ。あの日、やっと公園で津々倉を見つけて車内でキスをして、そのあと……樹の方が我慢できずに、そのままいたしてしまったのだ。思い返すと恥ずかしくて死ねる。
「いや……あれは……その、例外だろ?」
「左様でございますか?」
 どうやら彼の中では、すばらしい愛の記憶として脳に刻まれているらしく、一切迷いがない。
「樹様があれほど情熱的に俺を求めてくださるとは思わず、あれは本当に幸せな時間でした」
「そ、そう……?」
「なので一番大事なのは、場所ではなく、互いの気持ちだと思います。実は外出の時はいつもグッズを持参していたのですが、今日は仕事帰りだったので用意がありませんでした。これからは、いつでも携帯するようにいたします」
 実にいい笑顔でそう言われ、家以外でする用意が着々と充実していくこの方向性をどう止めればいいのか、頭を抱える樹であった。
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