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この吸血鬼、ストーカーです~世界で一番おいしい関係~

「お久しぶりです。どうぞこちらへ」
 海里は言って、居間にシルヴァーノとエリアを招き入れた。ふたりは室内を見回し、茶化すように言う。
「変われば変わるもんだな、ルカ。埃で灰色だった屋敷が、まるで花畑だ」
「いずれ電飾や、ミラーボールも取り付けられるかもしれんな」
 尊大に足を組んで座っていたルカは、フンと鼻を鳴らした。
「お前らがどう思おうが構わん。海里のためだ」
「花が好きなんです。香りは人でなくなった今も楽しめますから」
 海里が言ってそれぞれが席に着くと、四人はガラスボトルを取り出す。この日は月に一度の、血液の交換会だった。
 ルカの要望のため、海里のボトルだけは極端に小さい。
「なあ、ルカ。海里くんの採血量を少し増やしてくれないか」
 エリアの懇願を、駄目だ、とルカはにべもなく拒絶する。
「せめてティースプーンいっぱいくらいは」
 シルヴァーノの頼みにも、ルカは首を横に振った。
「口にできるだけありがたいと思え」
「海里のことになるとケチだよな、ルカは」
「ああ。我々はボトル一本分の血液を、海里くんに提供しているというのに」
「その分、俺の受け取る分を減らし、俺の血液は倍にして渡しているだろうが」
 三人は剣呑に言い争うが、これはほとんどいつものルーティンと化したやり取りで、実はみんな内心では楽しんでいるのではないか、と海里は思う。
 明け方近くにふたりが帰り、ルカとふたりきりになってホッとするのもいつものことだ。
 長椅子に寄り添って座り、広い肩にもたせかけた頭を、ルカは優しく撫でてくる。
「海里。前から聞こうと思っていたんだが」
 花の芳香の中、好きな人の傍らにいる幸福を感じながら海里は、なに? と上目遣いでルカを見た。
 ルカは咳払いをし、少しためらってから話し出す。
「俺たち三人の中で……お前は誰の血液が、一番美味いと思っている?」
 思いがけない問いかけに、えっ、と海里は目を見開いた。
「それは……」
「正直に言え、海里。俺は自分が選ばれなかったからと言って、怒ったりはしない。味覚の好みと人格的な魅力とは無関係だからな」
 と言いつつ、ルカの表情はひどく真剣だ。
「嫌だなあ。決まってるじゃないですか」
 海里は思わず苦笑して、身体ごとルカの方に向いて言う。
「俺が世界中で一番……誰よりも、どんな血よりも美味しいと思うのは、これです」
 そう言って両手を伸ばしてルカの頬を挟み、海里はその綺麗な形の唇に、自分の唇を押し付けたのだった。
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