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もふ・らぶ~うちのオオカミは待てができない~

 ある日の夜のこと。真千は右手にハサミ、左手にブラシを持って、ソファに腰を下ろして雑誌を読んでいた形に「形、尻尾をこっちに向けてくれないか?」と言った。
 彼にはどうしても確かめたいことがあった。
「いいけど。どうかした?」
 形が素直に、真千に尻尾を見せる。モフモフとした触り心地のいい尻尾は、オオカミの獣之人である証だ。
「あー……やっぱりな。ほらここ。こんがらがって毛玉になってる。お前、ここ数日、自分でブラッシングしていただろう? その結果がこれだ」
 真千は「俺がしていれば毛玉なんか絶対に作らないのに」と悔しそうに言い、ブラシを床に置いて、持っていたハサミで毛玉をパチパチと切っていく。
「仕事と家事で忙しい真千さんに負担を掛けないように、ブラッシングぐらいは自分でしようと思ってたんだ……」
「恋人なんだから、これくらい俺にさせろ。お前ももう少し俺に甘えなさい」
「俺、結構甘えている自覚あるんだけど?」
「俺はないから大丈夫だ。安心しろ」
 真千はキッパリと言いながら毛玉を切り落とし、「二度と毛玉は作らせない」と決心しつつ、丁寧に形の尻尾をブラッシングした。
「愛が籠もってる」
「そりゃあ、俺はお前の恋人だからな。自分の男に愛情を込めないでどうする」
 そう言った途端。形がオオカミ尻尾をボッと太くさせ、意味不明の呻き声を上げてソファの背もたれに顔を擦りつけた。
「どうした、おい」
「だって真千さんが俺のことを『俺の男』って! なんなの? 俺もう死ぬから! 嬉しすぎて死ぬから!」
「……やることやってるし、俺はお前の番なんだから、ほら、その、なんだ……」
 言っていて真千も恥ずかしくなってきたので、ぶっきらぼうに「勝手に死ぬな」と突っ込みを入れてみた。
「うん、死なない。可愛い真千さんと一緒に長生きして、いっぱい思い出を作る!」
「そうしてくれ。…………あ、枝毛も発見。お前、最悪だな。今夜から早速トリートメントするぞ」
「真千さんは俺より俺の尻尾が大事なのか?」
「お前が大事だからお前の尻尾も大事なんだよ。枝毛で美形度が下がったら嫌だし。一緒に風呂に入ってやるからトリートメントしような?」
「する。絶対にする。一緒に風呂に入る」
 真千の提案に、形がソファから体を起こして間髪を容れずに返事をした。
「……お前のそういう正直な所、嫌いじゃないぞ」
 真千は眉を下げて小さく微笑み、そっと形に顔を近づける。形の頬にそっと唇を触れさせたら、「そこじゃない。やり直して」と可愛い我が儘を言われた。 
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