いけ好かない商売敵と

小説

いけ好かない商売敵と

著者
バーバラ片桐
イラスト
幸村佳苗
発売日
2017年11月20日
定価
748円(10%税込)
身体は嫌いじゃない、だろ

探偵の朝生と、向かいに事務所を構える弁護士の松本は客を取り合う犬猿の仲だ。
朝生はそんな相手と諸事情により二度もキスをしてしまった挙句、二人で過去の現金強奪事件を追うことに。

捜査をする中、重要人物を追って入ったハッテン場で、
朝生は複数プレイに巻き込まれ身体を昂らされてしまう。

しかも助けてくれたはずの松本は敏感になった朝生の身体に愛撫を施し、想像以上の快感を与えてきて……!?

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登場人物紹介

朝生櫂吾(あさおとうご)
朝生櫂吾(あさおとうご)

二人の事務所が入るビルのオーナーで、刑事を辞め探偵をしている。無愛想で女性客の評判が悪い。

松本吉晃(まつもとよしあき)
松本吉晃(まつもとよしあき)

朝生のビルに法律事務所を構える新人弁護士。なにかと朝生を気にかけているようだが……。

試し読み

 駅前から五分ほど歩いた繁華街に、その雑居ビルはあった。
 五階建ての縦に細長いビルの屋上に、でかでかと『ストーカー対策・相談』の大きな看板が設置されている。山手線のホームから見えるその看板にはわりと効果があって、それを見てやってくる客が月に数人はいるのだ。
 事務所を出してまだ半年の新人弁護士である松本吉晃にとっては、その立地条件はとてもありがたかった。
 一階には喫茶店。二階から上は各回二つずつの事務所。
 そこの狭い階段を、松本は上がっていく。事務所に午前中から詰めているようにするのも、新しい依頼人を手に入れるいい方法だった。だからこそ、二階の廊下に人影があったときには、自分のところの客かと期待した。
 だが、その人影が見慣れた相手だと気づくと、松本の顔から人当たりのいい笑みはすうっと消えた。
 その端整な造作が際立つ無表情になって、彼の前を通り抜ける。
「――おい」
 その途端、恫喝するように言われた。
 二階には廊下を挟んで配置された、二つの事務所がある。
 一つは松本の法律事務所であり、もう片方はこのビルのオーナーである朝生櫂吾の探偵事務所だ。同じ二階にストーカー対策を業とする二つの事務所があるのだから、当然看板目当てでやってきたストーカー相談の客を取りあうこととなる。すでに二人は、この半年の間に犬猿の仲になっていた。
 猛勉強して弁護士資格を取った松本がスーツ姿でビシッと決めているのに対して、朝生はいつ見てもラフな姿だ。元刑事と聞いたが、暴力団対策班にでもいたのではないかと思うほどの、不良じみたガラの悪さ。シャツは派手だし、首筋には金色のネックレスまで光っている。そういうのが格好いいと思っているようなのだから、本当に理解しがたい。足元は常に便所サンダルで、だいぶ秋も深まってきたのにそれで寒くないのだろうかと思う。
 目つきは悪いし、客にも遠慮のない口の利きかたをする。だが、今日日、探偵も弁護士も客に対する配慮が必要ではないかと思うのだ。
 ――この男は、愛想のなさで損をしている。
 だからこそ、『ストーカー対策・相談』を目当てにやってきた客の大半が、人当たりのいい松本の弁護士事務所に吸いこまれてしまう。それは自然の摂理であって、文句を言われることではないし、言われても松本としては納得することができない。
 今回も、またそのことで文句を言われるのだと思った。この男が、自分に対して文句以外を言ったことはほとんどないからだ。だが、事務所の下見に来た日だけ、営業的な笑顔を浮かべて言われたことを松本は忘れてはいない。
『ああ、あの看板は、同じく探偵をしていたじいさんが出しっぱなしにしておいたものだから、ストーカー対策の仕事するんだったら、ちょうどいいんじゃねえか?』
 その言質を取っているのだから、今さら文句は聞き入れない。
 だからこそ、今日も何を言われようが平然と受け流せるように、松本は振り返って、腹に力をこめた。

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