小説

うちの殺し屋さんが可愛すぎる

著者
朝香りく
イラスト
八千代ハル
発売日
2017年1月20日
価格
680円(税抜)
俺はやっぱり、聡一郎と結婚したい

ボディーガードをしている聡一郎は謎の青年・亜鳥を引き取ることに。ヤクザの組長の愛人だったというが、組が解散したことで行き場を失ったらしい。 慣れているはずのキスひとつとっても初心な反応を見せる亜鳥。さらには「キスをしたから結婚したんだ!」とまで言い出した。 あまりに無垢すぎる亜鳥を訝しむが、聡一郎はその純粋さに愛しさを覚えていく。しかし、本当は暗殺術のみを仕込まれて育てられたのだと知って……。

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登場人物紹介

亜鳥(あとり)

キスをしたことで聡一郎と結婚したと思っている謎の青年。ヤクザの愛人だったというが…。

瓜生総一郎(うりゅうそういちろう)

政治家から極道まで幅広く対応するフリーランスのボディーガードをしている。

試し読み

「よかった、見つけた。探したんですよ瓜生さん。お久しぶりです」
 オレンジ色の間接照明。ジャズとタバコの煙が、絡み合うようにして流れる店内。
 東京のはずれ、小さな酒場が軒を連ねる、通称『地獄谷』と呼ばれる一角。
 カウンターバーの一番奥の席で、八杯目のバーボンで酩酊しかけていた瓜生聡一郎は、ふいにかけられた声に据わった目をそちらに向けた。
「……誰だ、貴様」
「ひどいな、赤尾っすよ。現役時代は随分、小遣いを稼がせてもらったじゃないですか」
 言いながら隣に座った痩せぎすの男の顔をまじまじと見て、ようやく聡一郎は思い至った。
 聡一郎が以前の仕事をしていたとき、裏の世界の情報を仕入れていた刺青の彫師の男だ。 
 だが正体がわかったからと言って、決して仲良く一緒に飲みたい間柄ではない。
「ああ、思い出した。だが悪いな。貴様とおしゃべりする気分じゃない」
 あっちへ行けと言わんばかりにしっしっと手を振ったが、赤尾は狡猾そうな笑みを浮かべたまま、動こうとはしない。
「つれないこと言わないでくださいよ。昔は瓜生さん、麻布辺りの洒落たバーで飲んでたじゃないですか。そっちも散々回って、やっとここを見つけたんですからね」
「俺の身辺を嗅ぎ回ってたってのか?」
 低い声に、赤尾は額の冷や汗を拭った。
「そんな人聞きの悪い言い方をしなくても。じ、実はですね、ちょっと折り入って瓜生さんに頼みがありまして」
 ああ? と聡一郎は眉を寄せ、思い切り唇をねじまげた。
「頼みだと。なんだってそれを俺が聞いてやると思うんだ。貴様にはなんの義理も借りもない、他をあたってくれ」
「いやいや、悪い話じゃないんですよ。むしろ瓜生さんにとっては、かなり美味しい話というか」
 赤尾は三十代前半といったところで、聡一郎と変わらぬ年齢に思えるが、こちらの機嫌を取るように敬語を使う。
 ふん、と聡一郎は鼻で笑った。
「他人から持ちかけられる美味い話なんてのを、誰が信じるか。本当に美味しかったら、独り占めをするかせいぜい身内で分け合うのが、人間てもんだろう。俺と貴様の関係で、そんなことはありえない」
「そ、そう警戒しないでくださいよ。せめて聞いてから判断してください」
 ますます胡散臭く感じた聡一郎は、酒で濁った目を赤尾の背後に何気なく向け、眉を顰める。
 そこにはあまり明るくない店の照明に、ぼんやりと浮かぶ白い細面ての顔があった。

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